インタビュー
相続税:納税時に慌てないためには ~「相続税」で押さえておくべき納税時のポイント~
※掲載している内容は、
2016年4月1日時点のものです。
前回、円満な相続を迎えるための大切な3つのキーワード(「節税」「遺産分割」「納税」)のうち「納税」が最も重要であるとお話しました。今回は、なぜ、「納税」が重要なのか、ご説明いたしましょう。
相続の実務を多く見ていますと、相続する方や将来に向け相続対策を考えられる方は、父親・母親ともにご存命の場合、相続財産をお持ちの父親が亡くなられた際の相続対策はしっかり考えているものの、父親が亡くなられた後、母親が亡くなられた場合の事はあまり考えられていないように見受けられます。
※税務の言葉では、父・母・子の家族構成で、その両親のどちらか先に亡くなった方の相続を「一次相続」、次に亡くなった方の相続を「二次相続」といいます。
■一次相続(父親)のときに、二次相続(母親)まで考慮することがポイント
父親が亡くなった時、母親には相続税法上の配偶者の優遇税制があります。遺産の1億6,000万円又は遺産の1/2(法定相続分)までの財産取得には相続税がかかりません。相続の現場では、この母親の優遇税制を活用して、納税額を減らすことを選択しがちです。
この段階で次に母親が亡くなった場合を想定することは、なかなか考えられないかもしれません。しかし、父親が亡くなったときに母親の遺産相続までを考慮にいれておくことが重要となります。
※法定相続分: 父・母・子2人の家族構成の場合では母親1/2 子供1/4 子供1/4
具体的にみてみましょう。
【具体例1】では、父親の相続財産1億5,000万円を法定相続分通りに分割し取得した際の相続税額は、約1,495万となります。このとき、母親の相続税額は優遇され、ゼロとなりますが、残る約747万は、子供2名が分担し納税する必要があります。
さらに、母親が亡くなった場合には、母親固有の全財産総額が1,000万円とすると、相続した財産7,500万円とを合計した8,500万円が相続財産となり、最終的に子供2名で相続税約545万を納税する必要が出てくるのです。
♦︎前提条件:父の相続財産が1億5,000万円で、母固有の財産が1,000万円の場合
【具体例1】法定相続分で一次相続を行った場合の一次・二次合計の相続税額 [単位:万円]
取得額 | 法定相続分 での発生税額 |
相続割合 | 配偶者の 税額軽減 |
発生する 相続税額 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
一次相続 | 母 | 7,500 | 830.0 | 50% | 747.4 | 0.0 |
子1 | 3,750 | 332.5 | 25% | - | 373.7 | |
子2 | 3,750 | 332.5 | 25% | - | 373.7 | |
合計 | 15,000 | 1,495.0 | 100% | 747.4 | 747.4 | |
二次相続 | 子1 | 4,250 | 272.5 | 50% | - | 272.5 |
子2 | 4,250 | 272.5 | 50% | - | 272.5 | |
合計 | 8,500 | 545.0 | 100% | 0 | 545.0 | |
一次二次合計 | 23,500 | ![]() |
1,292.4 |
ここで相続した財産は、父親が亡くなった時に、財産の半分の相続税を支払ったにも関わらず、結果的に相続税額が大きく減らないのはなぜでしょう。
今回の事例では、下記①~③の理由で子供2名への相続税負担が増えているためです。
- ① 父親が亡くなった際、母親の取得額が多かったことにより母親の遺産総額が増加
- ② 二次相続では法定相続人が1人減ることにより基礎控除額が減少
- ③ 二次相続では配偶者にかかる優遇税制の適用がないこと
それでは、このような時どうすれば良いのか、本題である「一次相続(父親)のときに、二次相続(母親)まで考慮することがポイント」について、お話しましょう。
■一次相続の時に、“少し先”を見越した相続税負担への対策準備が重要
第一に、一次相続と二次相続を併せて納税額が最少となる母親の取得額を算出し、それを考慮して一次相続における母親の取得額を決めるのが良い対策です。
【具体例2】では、【具体例1】と同じ前提条件にて、一次相続と二次相続を併せて納税額が最少となる母親の財産取得額を試算してみると、約3,000万円となります。納税額は、【具体例1】に比べ、約100万円も抑えることができました。
♦︎前提条件:父の相続財産が1億5,000万円で、母固有の財産が1,000万円の場合
【具体例2】一次・二次相続を考慮して最小の納税額となるよう母の一次相続を行った場合 [単位:万円]
取得額 | 法定相続分 での発生税額 |
相続割合 | 配偶者の 税額軽減 |
発生する 相続税額 |
||
---|---|---|---|---|---|---|
一次相続 | 母 | 3,000 | 830.0 | 20% | 747.5 | 0.0 |
子1 | 6,000 | 332.5 | 40% | - | 598.0 | |
子2 | 6,000 | 332.5 | 40% | - | 598.0 | |
合計 | 15,000 | 1,495.0 | 100% | 747.5 | 1,196.0 | |
二次相続 | 子1 | 2,000 | 0 | 50% | - | 0 |
子1 | 2,000 | 0 | 50% | - | 0 | |
合計 | 4,000 | 0 | 100% | 0 | 0 | |
一次二次合計 | 19,000 | ![]() |
1,196.0 |
確認ポイント
上記の具体例では母の固有財産が1,000万円の場合に一次二次あわせて納税額が最小となる母の取得学は約3,000万円であることを示しています。
母がもともと持つ固有の財産が増えると、その額が最小となる母の一次での取得額は以下のとおりです。

- 固有の財産が3,000万円の場合 : 約1,000万円
- 固有の財産が5,000万円の場合 : 0円
第二に、相続税は、現金以外の財産(不動産等)を取得しても“現金で納税しなければならない税金”であることを認識し、一次相続のときにその準備を行っているかどうかも重要となります。
【具体例1】の場合、二回にわたり、相続税を「現金」で納付する必要に迫られます。一方、【具体例2】でも、一次相続の段階である程度多額の相続税を納付する必要に迫られます。この時、子供2名が、多額の納税資金用意のために不動産を売り急いだり、借入の手続きに奔走したりといったことが起こるかも知れません。
相続発生の段階でこうした事態を防ぐ必要な準備として、例えば、以下のような対策が考えられます。
- ① 暦年贈与で相続人へコツコツと現金を贈与する
- ② 不動産は換金しやすい所有形態にしておく
- ③ 生命保険の加入により、争族防止とともに現金がすぐに手元に準備できるようにしておく
円満な相続を迎えるためには、まず、父母(夫婦)双方の固有の財産を見積り、二次相続までを考慮した相続税の試算が重要な作業となってきます。一次、二次併せて納税額が最少となるような分割プランが決まったら、その納税額支払のための事前の備えをしておくことが極めて重要といえるでしょう。

お話をうかがった方
新宿総合会計事務所 税理士
伏木 栄太郎 さん
- ※掲載している内容は、2016年4月1日時点のものです。
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