老後に備える保険は必要?考えられるリスクや保険の種類を解説
目次
定年退職後は、収入が公的年金に限られることが多く、家計に大きな変化が訪れます。老後に備え、新たな保険への加入や、加入している保険の見直しを検討している方もいるのではないでしょうか。
今回は、老後に備えるための保険の必要性や、老後の生活に役立つ保険について解説します。保険加入時の注意点も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
老後の生活で想定されるリスク
安心して老後の生活を送るためには、老後の生活で想定されるリスクについて知ることが大切です。ここでは、老後の生活で想定される、具体的なリスクを見ていきましょう。
病気やケガによる治療・入院で家計を圧迫する
老後の生活では、病気やケガによる治療・入院など、医療費の負担が増加する可能性があります。
厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査の概況」によると、年齢が上がるにつれて入院や外来の受療率が増加する傾向が見られます。
たとえば、人口10万対の入院率は45~49歳で345、75~79歳は2,204、外来受療率は45~49歳で3,745、75~79歳は11,527です。75~79歳の入院率は45~49歳の約6倍、外来受療率は3倍以上と、受療率が増加していることがわかります。
また、厚生労働省の「生涯医療費(令和3年度)」によると、日本人が生涯で必要となる医療費の目安は、約2,800万円で、そのうち約49%は70歳以上で必要になるとされています。日本には公的保険制度があるため、すべてが自己負担ではないものの、一定の医療費負担が発生することは否めません。
老化に伴う病気やケガによる入院・治療費用を想定し、事前に備えることが大切でしょう。
自分や家族の介護費用で家計を圧迫する
老後の生活で想定されるリスクには、自身や家族の介護費用の負担も挙げられます。
生命保険文化センターが発表した「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる月々の費用は平均8.3万円、介護期間は平均5年1か月です。また、介護用ベッドや車いすの購入費用のほか、住宅改造の費用など、一時的に必要な費用の平均は74万円となっています。
介護費用の一部は、公的な介護保険制度によってまかなえます。要介護状態に認定されると、1割(一定以上の所得の方は2割または3割)の自己負担で介護サービスを受けることが可能です。ただし、介護の必要性を表す指標である「要介護度」によって支給限度額が設けられているため、その範囲を超える部分は全額自己負担となります。
また、1か月の自己負担額が一定の上限を超えた場合、所定の手続きにより超えた分が払い戻される「高額介護サービス費」の制度もあります。しかし、介護には、決して安いとはいえない費用が発生する可能性があるため、家計を圧迫しないよう、介護で想定される費用について想定しておくことが必要でしょう。
葬儀費用で家族に負担をかける
葬儀費用の準備不足も、老後の生活で想定されるリスクの1つです。
SBIいきいき少額短期保険が実施したアンケートによると、葬儀費用の平均は約152万円でした。葬儀費用は、葬儀の規模や形式によって大きく変動するものの、100万円以下と回答した方は44.6%にとどまっています。葬儀費用には、100万円以上かかるケースも少なくないことがわかります。
残された家族には大きな経済的負担となるため、葬儀費用について備えておくと安心です。
老後に備えるための保険は必要?
老後の生活で考えられるリスクを踏まえ、保険の加入が必要かどうかは、家計や生活状況などによって左右されます。総務省が発表した「家計調査報告(家計収支編)2023年(令和5年)平均結果の概要」を参考に、老後の家計収支について見ていきましょう。
同調査によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の月の実収入(社会保障給付+その他)の平均は、24万4,580円、支出(消費支出+非消費支出)は28万2,497円でした。つまり、1か月あたり3万7,917円不足する計算になります。
老後は安定した収入源が限られるため、突発的な支出が家計に与える影響は大きいと考えられます。病気やケガで入院が必要になったり、長期的な介護が必要になったりした場合、家計への負担は避けられません。
公的医療保険制度や介護保険制度があるとはいえ、すべての費用がカバーされるわけではなく、自己負担が発生します。これらを踏まえると、保険の加入や見直しは、老後のリスク管理の一環として有効な手段といえます。
老後に役立つ民間保険の種類
民間保険とは、保険会社が提供する任意加入の保険のことです。
老後に備えるための民間保険には、さまざまな種類があり、自分のライフステージやリスクに応じた保険を選ぶことが大切です。ここでは、老後に役立つ民間保険について、代表的な保険をご紹介します。
医療保険
医療保険とは、病気やケガで入院や手術をした際に、給付金を受け取れる保険のことです。公的保険ではカバーされない、自己負担額や入院費、差額ベッド代などの費用負担に備えられます。
保障内容の例は、下記のとおりです。
■医療保険の保障内容の例
医療保険の商品によって、がんや先進医療に特化したものなど、特徴が異なります。自身や家族の健康リスクやライフステージ、予算なども考慮し、保障内容や条件を確認して加入を検討しましょう。
介護保険
介護保険とは、公的介護保険制度とは別に、介護費用の負担に備えて加入する民間の保険のことです。保険会社など、民間企業が提供しています。
民間の介護保険の保険金額は、多くが公的な介護保険制度で用いられる要介護度を基準に決定されます。一般的には、要介護度が重くなるほど、受け取れる給付金額が増える仕組みです。
民間の介護保険の多くは「一時金タイプ」と「年金タイプ」に分けられ、それぞれ保険金が支払われるタイミングが異なります。一時金タイプと年金タイプの違いを確認しておきましょう。
一時金タイプ
一時金タイプは、商品ごとに定められた要介護状態になったとき、まとまった金額を一時金として受け取れる介護保険です。介護用品の購入や住宅改修費など、一括した資金が必要な場合に役立ちます。
年金タイプ
年金タイプは、保険金が支給される状態が続く限り、毎月決まった金額を受け取れる介護保険です。長期に及ぶ介護費用の負担を安定的にカバーできます。
死亡保険
死亡保険とは、被保険者が死亡した場合などに、残された家族や指定された受取人に保険金が支払われる保険のことです。葬儀費用や残された家族の生活費の補助として利用されることが多く、老後に備えるのに適した保険でしょう。死亡保険は主に、下記の3種類に分けられます。
養老保険
養老保険とは、死亡保障と貯蓄機能を併せ持つ死亡保険のことです。保険期間中に被保険者が死亡または保険会社所定の高度障害状態になった場合に、保険金が支払われます。また、満期を何事もなく迎えた場合は、死亡保険金と同額の満期保険金が支払われます。
定期保険
定期保険とは、保険期間中に死亡または保険会社所定の高度障害状態になった場合に、保険金が支払われる死亡保険のことです。基本的に掛け捨て型となるため、貯蓄性はありません。
終身保険
終身保険は、保険期間が一生涯続く死亡保険のことです。養老保険や定期保険とは異なり、満期はありません。また、解約時には解約返戻金を受け取れることから、保険としての機能だけでなく、老後資金や急な出費にも対応できる点が特徴です。
個人年金保険
個人年金保険とは、公的年金を補う目的で個人が加入する私的年金のことです。契約時に定めた年齢まで保険料を支払い、受取開始時期になると年金を受け取ることができます。年金の受取方法は商品によって異なり、「一括で受け取る」「一定期間にわたって受け取る」「生涯にわたって受け取る」など、さまざまな選択肢があります。
老後のための民間保険に加入する際の注意点
民間保険に加入する際は、適切な保障を選ぶだけでなく、加入後の生活への影響も考慮することが大切です。下記のポイントに注意して保険を選びましょう。
無理のない範囲で支払える保険を選ぶ
民間の保険に加入する際は、老後の生活費を圧迫しない範囲で保険を選ばなければなりません。特に、貯蓄性のある保険は、掛け捨て型の保険よりも保険料が高くなることがあるため、家計に負担がかからないか検討する必要があるでしょう。
また、公的保険制度の保障内容を確認し、個人で加入する保険とのバランスを考えることも大切です。公的保険制度の詳細については後述します。
途中解約した際の解約返戻金について確認する
解約返戻金が発生する保険商品に加入する場合、途中解約すると解約返戻金が少なくなることがあります。そのため、加入前には解約返戻金の金額や条件を確認しておきましょう。
早期解約の場合、解約返戻金がほとんどない可能性もあります。長期間にわたって保険料を支払い続けられるかどうか、よく検討しなければなりません。
保険を見直す際は保障内容を確認する
ライフステージや家計の状況に合わせて保険の見直しを行う際は、保障内容をよく確認することが大切です。保険の見直しによって保障内容が変わる場合、保険を見直す目的と保障内容が一致しているかを確認し、適切な保険選びを心掛けましょう。
老後に利用できる公的保険制度
公的保険制度とは、国や自治体が運営する保険制度で、国民が医療や介護、年金などの保障を受けるための仕組みのことです。ご紹介した民間保険は、公的保険制度の保障を補う目的で加入します。
公的保険には「公的医療保険」「労災保険」「公的年金」「雇用保険」など、さまざまな種類があり、原則として強制加入です。
ここでは、特に老後に役立つ公的保険について見ていきましょう。
公的介護保険制度
介護保険制度とは、高齢者や要介護者が必要な介護サービスを受けるために、国が提供する保険制度のことです。40歳以上のすべての国民が加入対象となり、65歳以上の方は「第1号被保険者」、40歳から64歳までの方は「第2号被保険者」となります。
第1号被保険者は、原因を問わず要介護認定を受けた場合に介護サービスを受けられますが、第2号被保険者は、加齢に伴う疾病(特定疾病)が原因で要介護認定を受けた場合に限り、介護サービスを受けられます。
介護サービスを受けるためには、訪問調査や主治医の意見書などをもとに「要介護認定」を受けなければなりません。要介護認定を受ける際に決まる要介護度は、要支援も含めて7段階に分かれており、介護の度合いに応じて判定されます。
要介護度の目安は下記のとおりです。
■要介護度別の身体状態の目安
要介護度 | 身体の状態(例) | |
---|---|---|
要支援 | 1 | 日常生活はほとんど1人でできるが、立ち上がりなどに何らかの支えを必要とすることがあり、家事の一部に見守りや手助けを必要とする状態。 |
2 | 立ち上がり、片足立ちなどに支えを必要とすることがあり、家事の一部、日常生活の一部に見守りや手助けを必要とするが、適切な介護予防サービスにより状態の維持や改善が見込まれる状態。 | |
要介護 | 1 | 立ち上がり、片足立ちなどに支えを必要とすることがあり、家事の一部、日常生活の一部に見守りや手助けを必要とする状態。 |
2 | 歩行などに何らかの支えが必要で、食事や排泄、入浴、金銭管理などに手助けが必要な状態。物忘れなど認知機能の一部に低下が見られることがある。 | |
3 | 立ち上がりや片足立ちなどが1人でできず、食事や排泄、入浴、衣服の着脱などに介助が必要な状態。認知機能の低下によるいくつかの行動・心理症状が見られることがある。 | |
4 | 歩行などが1人でできず、座位保持にも支えを必要とし、食事や排泄、入浴、衣服の着脱などに全面的な介助が必要な状態。全般的な認知機能の低下による多くの行動・心理症状が見られる。 | |
5 | 歩行、座位保持などがほとんどできず、日常生活を遂行する能力が著しく低下し、全面的な介助を必要とする状態。意思の疎通ができないことが多い。 |
要介護認定を受けると、在宅介護(訪問介護、デイサービスなど)や施設介護(特別養護老人ホームなど)のサービスを1割から3割の自己負担で受けられます。
高齢者医療制度
高齢者医療制度とは、主に65歳以上を対象とした公的な医療保険制度のことです。75歳以上の方や65歳以上で一定の障害がある方は、後期高齢者医療制度の対象となります。
保険料は年金から天引きされることが多く、年齢や所得によって自己負担の割合が異なります。高齢者医療制度の自己負担の割合は下記のとおりです。
■高齢者医療制度の自己負担割合
保障内容をよく確認し、老後に備えられる保険を検討しよう
老後の生活では、老化に伴う病気やケガ、介護など、さまざまなリスクが考えられます。これらのリスクに備えるためには、公的保険制度では保障されない部分をカバーする、民間の保険への加入を検討することが大切です。
無理のない範囲で支払える保険料であることを前提に、自身の老後の生活に必要な保障を見極め、最適な保険を選びましょう。
今回ご紹介した、老後に想定されるリスクや民間保険加入時の注意点などを参考に、老後に備える保険への加入を検討してはいかがでしょうか。
監修者プロフィール
ファイナンシャル・プランナー
辻田 陽子 さん
FPサテライト所属ファイナンシャル・プランナー、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種、日商簿記2級。
税理士事務所、金融機関での経験を経て、FP資格を取得。それぞれのライフイベントでのお金の不安や悩みを減らし、人々がより豊かで自由な人生を送る手助けをすべく活動中。
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- ※掲載している内容は、2024年12月2日時点のものです。
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