大切なペットとの“いきいき”とした暮らしのために
犬猫お役立ち情報
猫の生活
【獣医師監修】猫の熱中症とは?気になる対策とその症状を重症度別に解説
目次
暑くなると猫の飼い主にとって気がかりなのが「猫の熱中症」です。熱中症になりやすい条件や予防策、症状と応急処置の方法、病院での治療方法をご紹介します。熱中症は命を落とす危険もあります。帰宅したら愛猫がぐったり…なんてことがないように、気温が上がる前からしっかりと熱中症対策をしておきましょう。
飼い主が知っておきたい猫の熱中症
私たち人間と同じように、猫も熱中症になります。猫は暑くなると涼しくて快適なところを自分で見つけて移動するため、「大丈夫」だと思われがちですが、決して暑さに強いわけではありません。閉め切った家や車の中、好奇心で入り込んだ押し入れなど、あらゆるところに熱中症の危険が潜んでいます。飼い主さんは猫を熱中症からしっかり守ってあげましょう。
猫の体温調節のしくみ
人間は暑いとき、全身から汗をかいて体温を下げることができますが、猫は汗をかくのが肉球と鼻だけなので、人間のように体温を下げることができません。
また、猫は基本的に鼻で呼吸をする動物なので、犬のようにハアハアと舌を出して口呼吸で体温を下げようとすることはまれです。体温調節はあまり得意ではないと言えるでしょう。
熱中症が心配な気温
気温が30℃を超えると熱中症の危険が高まります。また、30℃以下でも湿度が高いと熱中症になる可能性があります。最近は猛暑の日が増えているので、気温と湿度には特に注意が必要です。
5月から熱中症で病院に運ばれる猫が増えてきます。「まだ5月だから」と油断しないようにしましょう。少なくとも秋口までは気を付ける必要があります。
熱中症になりやすい環境
夏の閉め切った部屋や車の中は、温度が急激に上がりやすいので危険です。蒸し暑いときにキャリーケースに入れて移動する場合も、ケース内に熱がこもるので、熱中症になりやすくなります。冬でも窓を閉め切った車の中は、日が差すと高温になります。密閉された車内はどの季節でも熱中症のリスクがあると考えておいたほうがいいでしょう。
猫が押し入れに入ったのに気が付かず、飼い主さんが閉じ込めてしまった、外に出た猫が物置小屋に入ってしまっていたなど、狭い場所が好きな猫ならではのリスクもあります。
また、家に見知らぬ人が来たために驚いて、水も飲まずにずっと蒸し暑い物陰に隠れていたといったアクシデントが熱中症の原因になることもあるので注意しましょう。
猫の熱中症対策 押さえておきたい6つのポイント
猫の熱中症は気付かないうちに進行し、命にかかわることもある恐ろしい症状です。飼い主さんがしっかりと対策をすることでかなり防ぐことができます。6つのポイント別に解説します。
1.猫の適温は27~28℃。エアコンの使用も積極的に!
猫の適温は、人間が少し暑いと感じる27~28℃程度です。夏場はエアコンを積極的に利用して温度調整をしましょう。気温はそれほど高くないけれど湿気が多くジメジメする日は、ドライ(除湿)機能を活用するなど使い分けるのもよいかもしれません。
注意したいのは、リモコンを置く場所です。テーブルの上などは、猫が踏んでスイッチを切ってしまう危険性があります。猫が触れられない場所に置くように心がけましょう。
2.扇風機の風はあてるのではなく循環させる
扇風機には空気を冷やす効果がないので、扇風機だけでは猫の熱中症を予防できません。高い場所にこもった暑い空気と床にたまった冷たい空気を循環させるように、エアコンと併用しましょう。
扇風機を使用する場合は、風が猫に直接あたらないように注意します。猫は被毛に覆われていて汗腺もないので、扇風機の風があたっても「気化熱」が発生せず、涼しく感じないと考えられています。逆に長時間、扇風機の風にさらされることで、体調不良を起こすケースもあるようです。ケージなどに入れて行動を制限している場合は、特に注意しましょう。
また、何かのはずみで扇風機の羽がむき出しになる、扇風機が転倒するなど、ケガをする危険もあります。カバーをつける、転倒防止策を施すなど対策を講じましょう。羽がないタイプやサーキュレーターを検討してもいいかもしれません。
風通しを良くすることが大切なので、換気扇をつけておくのもおすすめです。
3.猫も水分補給が大切。水は数か所に
十分な水分補給ができるよう、新鮮な水が飲めるようにしておきます。水が変質したり、猫がこぼしたりすることもあるので、倒れにくいボウルなどに入れて数か所に設置します。留守にする場合は、水が十分あるか確認してから出かけましょう。
容器が変わると、警戒して水を飲まない猫もいるので、ふだんから水を複数置いておくといいかもしれません。
4.猫がお気に入りの場所を涼しくしておく
猫が好きな場所、よく過ごしている場所を涼しくしておきます。なかにはエアコンをあまり好まない猫もいます。猫がいつでも行き来できるように、できればドアは開放しておきましょう。
部屋数が少ない場合は、バスルームなど比較的涼しい場所に猫が自由に入れるようにしておきます。おぼれる危険があるので、浴槽には水を溜めないでください。ドアストッパーなどで、閉め出しや閉じ込めを予防しましょう。
5.ブラッシングをして冬毛をしっかり除去
日ごろからブラッシングをして冬毛を取り除いておくと、通気性がよくなり、熱が逃げやすくなります。特に長毛種は毎日のお手入れが欠かせません。ブラッシングは猫との大切なコミュニケーションの1つです。愛猫との絆を深めるためにも積極的に行いましょう。
6.ひんやりグッズを上手に活用
猫の熱中症対策としてグッズがいろいろと販売されています。停電などでエアコンが使用できなくなる場合を考慮し、グッズも用意しておくと安心です。
対策グッズには次のようなものがあります。猫の性格や年齢、好みにあわせていくつか組み合わせて用意するのがよさそうです。
大理石マットや冷却ジェルシート、アルミシートは、猫が上に乗って涼むものです。ジェルシートは猫が噛んでも、中身が出てこないペット用を選んでください。食品用の保冷剤には、猫が口に入れると中毒を起こすエチレングリコールが使われている場合があるので使用しないようにしましょう。
ペットハウスには、冷感素材を使用したもののほかに、凍った保冷剤でハウス内の温度を下げるタイプもあります。保冷剤は専用の引き出しに入れるので、猫が触れる心配がなく、冷却効果も長時間持続します。
断熱・遮光シート、サンシェードやすだれ、遮光カーテンは、室温が上がらないよう直射日光を防ぐために使います。猫は窓辺が好きな動物です。カーテンと窓の間が好きな猫もいるので、遮光カーテンがかえって逆効果になる場合もあります。猫がいつもどこで過ごしているのか、よく観察してから導入を決めましょう。
重症度でみる猫の熱中症の症状
飼い猫が熱中症かどうかを見極めるためにも、ふだんから猫の状態を観察しましょう。そうすることで、変化にいち早く気付きやすくなります。特に昼間、留守にすることが多い場合は、帰宅後に排せつ物の状態や飲み水の減り具合などをよく観察しておくことも大切です。
軽度:口を開けてハアハアと呼吸している、よだれを垂らす、元気がない
口を開けて大きくハアハア(=パンティング)と呼吸をしていたら、熱中症を疑いましょう。猫は犬のように、口を開けて呼吸をしません。ハアハアと口呼吸をしているときは要注意サインです。
まず、体温が測れるようであれば、測定しましょう。猫の平熱は、肛門での測定で38℃台です。もし、口で呼吸していて、体温が39℃以上であれば必ず動物病院に相談してください。
さらに次のような症状がある場合は、すぐに動物病院に相談してください。
中度:嘔吐、下痢、震え
さらに熱中症が進むと嘔吐や下痢といった次のような症状が出ることがあります。すぐに動物病院に連絡して、受診しましょう。
重度:発作、意識不明
意識がなくなる、けいれんを起こしている状態はかなり重症です。大至急、動物病院を受診する必要があります。
飼い主が知っておきたい応急処置
熱中症と思われる症状が出たら、ただちに日の当たらない涼しい場所に移動させ、すぐに次の手順で応急処置をして、体を冷やします。できれば動物病院に連絡し、応急処置についてアドバイスを受けることをおすすめします。
1.保冷剤で首、脇を冷やす
ガーゼやタオルなどでくるんだ保冷剤で、太い血管がある首や脇などを十分に冷やします。保冷剤を直接あてると猫が凍傷になる恐れがあります。保冷剤は必ず布でくるみましょう。
2.濡れたタオルで体をくるむ
濡れたタオルで体をくるんで冷やします。すぐに体温でタオルが温まるので、タオルを交換しながら繰り返し行います。霧吹きで水を吹きかけるのも効果的です。もし水に濡れるのを嫌がらない猫であれば、直接水をかけてもよいでしょう。
3.風を送る
猫の体に直接風があたらないように気を付けながら風を送り、水分を気化させます。エアコンも一緒に使うといいでしょう。扇風機がない場合、うちわや扇子などであおぎましょう。
4.水を飲ませる
一気にではなく、少しずつ水を飲ませてあげましょう。食欲があるようならウェットフードも効果的です。意識のない猫、自分で水を飲めないくらい弱っている猫は、無理に水を飲ませると誤嚥の危険があります。水を含ませた布やコットンで舌を濡らす程度にしましょう。意識が怪しいと感じたら、必ず、そしてできる限り早く動物病院に連れて行きましょう。
体温の下げ過ぎには注意!
あまり冷やしすぎるのも危険です。上記1~4の体温を下げる手当てをすると猫の体温は徐々に低下し、38℃くらいで手当てをやめても、その後も体温は低下します。39℃以下になる前に手当ては中止しましょう。猫の体温は直腸に体温計を差し入れて測定すると正確に測れます。ふだんから飼い主さんが行っている場合は測定してもよいと思いますが、もし、測り慣れていなければ、猫の体が冷たいと感じたら冷やすのを中止し、必ず動物病院に連れて行きましょう。
病院での治療方法と治療費
猫が熱中症で動物病院にかかった場合、どのような治療をするのでしょうか?また、治療費はどのくらいかかるのでしょうか。合併症などとあわせて解説します。
治療方法
熱中症の程度や猫の状態によって治療方法は変わりますが、一般的には次のような治療や検査が行われます。
治療費
実際に当社へご請求があった治療費用例をご紹介します。
- 例① 診断名:熱中症
- 【検査】血液検査、レントゲン検査、超音波検査
- 【治療】注射・点滴治療
- 【治療費用】30,132円
- 例② 診断名:胃腸炎(熱中症の疑いあり)
- 【症状】元気がなく、食欲不振。嘔吐と発熱あり。
- 【治療】受診当日は注射・点滴治療を行い、翌日の再診の際も注射治療
- 【治療費用】6,180円(2日間合計)
- ※治療の平均や水準を示すものではありません。
- ※動物病院によって、治療項目や金額は異なります。
後遺症と死亡率
熱中症が重度であった場合、必要な血液が臓器や組織に行き渡らない循環不全により脳や組織が酸欠を起こし、次のような合併症や後遺症を生じる場合があります。
死亡率は、36~46%になると言われています。
熱中症になりやすいのはどんな猫?
体質的に熱中症にかかりやすい種類の猫がいます。また、年齢、体形、持病などによっても、熱中症のかかりやすさに違いがあります。
短頭種と長毛種
ペルシャ、エキゾチックショートヘア、ヒマラヤンなど鼻がつぶれた「短頭種」の猫は、次のような理由から熱中症のリスクが高いと言われています。
また、メインクーンやノルウェージャンフォレストなどの「長毛種」は、毛によって熱がこもりやすいので、注意が必要です。
子猫と老猫
子猫は動きが活発ですが、体温調節は未熟なので熱中症にかかりやすいと言えます。部屋の空気が冷えすぎてもよくないので、成猫よりも少し高めの29℃を目安に様子を見ながら調整してください。暑い部屋ではしゃぎすぎたあとなど、注意しましょう。
高齢の猫は体温調節機能が衰えているため、暑さ・寒さへの対応が苦手です。一般的には、7歳以上からが中年期、11歳からは高齢期と言われています。7歳を過ぎたあたりから気にかけるといいかもしれません。
高いところへ登るのが苦手になった、寝てばかりいるなどの傾向が見られたら要注意です。高齢になると窓辺で日向ぼっこをしたまま、暑くなっても動かずにいることもあります。飼い主さんがときどき場所を移動してあげるなど、配慮が必要です。
持病がある猫や太った猫
心臓病や慢性腎不全のほか、呼吸器や循環器系の持病がある猫は熱中症にかかりやすい傾向にあります。手術直後など、療養中で自由に動けない猫も要注意です。また、太った猫は、皮下脂肪に体内の熱をためやすいため、熱中症のリスクが高まります。
まとめ
重症化すると命を落とす危険もある猫の熱中症。大切な愛猫が熱中症にならないためにも、飼い主さんはしっかりと対策をしましょう。暖かくなってきたら要注意です。もし、様子が変だと思ったら、まずは落ち着いて猫の体を冷やし、すぐに動物病院を受診してください。
監修者プロフィール
獣医師:佐々木伸雄 先生
東京大学卒業後、同大学の獣医学科、動物医療センターで動物外科の教員として勤務。主な対象動物は犬、猫であるが、牛、馬なども診療。研究に関しては、動物の腫瘍関連の研究や骨の再生医療など。2012年3月、同大を定年退職。この間、日本獣医学会理事長、農林水産省獣医事審議会会長などを歴任。
- ※掲載している内容は、2020年9月1日時点のものです。
- ※ページ内のコンテンツの転載を禁止します。