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【獣医師監修】猫の膀胱炎の症状とは?~見分け方と対処の仕方、予防方法~

猫の膀胱炎は、犬と比べて細菌性の単純膀胱炎は少なく、原因不明の猫下部尿路疾患(特発性膀胱炎)が多いという特徴があります。この病気は、気付かずに放っておくと腎臓の疾患につながる可能性があるなど、注意しなければいけません。基本的には病院での治療が必須で、ときには療法食治療も行なわれますが、この記事ではその兆候になる症状の見分け方や対処法について解説します。
こんな状態が見られたら要注意
膀胱炎は外からわかる症状があまりないので、ふだんの生活から兆候に気付いてあげることが重要です。特にトイレでの様子や排泄物のチェックは欠かさないようにしましょう。まずは、膀胱炎が疑われる場合に見られる状態・症状を紹介します。
1回のおしっこの量が少なく、頻繁にトイレに行く
何度もトイレに行きたがる、1回のおしっこの量が少ないというときは要注意です。排尿時に痛がって声を上げることもあります。ふだんはきちんとトイレで排尿するのにトイレ以外で粗相することもあります。また、尿がぽたぽた垂れている(尿失禁)こともあります。
半日以上おしっこをしていない
トイレに行くのにおしっこが出ない、排泄の格好をするのに尿が出ないというときは、注意が必要です。特に尿道が細いオスの猫に多く見られ、尿道が結晶状の結石や炎症による分泌物で詰まってしまい、おしっこが出ない状態です。ウロウロと歩き回ったりしながら、半日以上排尿できないときは、急いで受診する必要があります。
陰部を舐めたり、気にする素振りを見せる
しつこく陰部を舐める、いつも気にしているというときは、痛みや不快感があると考えられます。陰部が気になるため、どことなくそわそわして落ち着きがなくなることもあります。
おしっこのにおいや色がいつもと違う
おしっこのにおいがいつもよりきつい、おしっこの色が白く濁る、あるいはピンクや血が混じったような赤色をしている場合は異常があると考えなければなりません。トイレにティッシュを敷いておくとよくわかります。また、猫の尿結石は大きな結石ではなく、細かい結晶状なことが多く、排泄後のおしっこがキラキラ光って見えることがあります。
サインを見逃すと命に関わる場合も…膀胱炎ってどんな病気?
膀胱炎による排尿障害があると、腎臓病や尿毒症など重大な病気を引き起こす可能性があります。お腹の膀胱周辺を触ると嫌がるなど、「なんとなくいつもと違う」というサインを見逃さないようにしましょう。
上に挙げた症状が一度に出るわけではなく、膀胱炎の程度によって症状は異なります。オスで尿道閉塞がある場合は症状が激しく、緊急処置が必要なため、注意が必要です。
猫はもともと痛みや具合の悪さを隠す動物なので、異常な声を上げるときはかなり痛いと考えたほうがいいでしょう。
重篤化した場合のリスク
膀胱炎の初期症状に気付かずにいると、重症化して命に関わる可能性があります。
- 腎不全
- 腎臓は血液中に含まれる老廃物をろ過して、尿中に排出しています。この機能が働かないと、血液中に老廃物がたまってしまいます。腎不全とは腎機能に障害が起こる病気で、しばしば進行性で、一般に障害を受けた腎臓の組織は元に戻ることはありません。腎不全が進むと、命に関わることがあります。
- 尿毒症
- 腎不全が進行し、尿が排泄できない状態が続くと、体内に毒素がたまります。この状態を尿毒症と呼び、猫はぐったりして食欲はなくなり、嘔吐をすることもあります。この状態は極めて危険で、急いで動物病院を受診する必要があります。
原因
猫では、細菌や結石による膀胱の炎症のほかに、検査をしても原因がはっきり特定できない猫下部尿路疾患(FLUTD:特発性膀胱炎)という疾患もあります。
- 細菌感染
- 炎症の原因になるのは、ブドウ球菌や大腸菌などによる細菌感染です。犬に比べ、猫だと少ないと考えられます。
- 膀胱結石・尿道結石
- 食事や遺伝的体質などさまざまな原因でできた結石・結晶が、膀胱の粘膜に傷を付けることで炎症を起こします。代表的なものはストルバイトと呼ばれる結石です。結晶状の結石が尿道に詰まる「尿道閉塞(尿道結石)」はオス猫に多く見られる疾患で、これは手術も含めて緊急処置が必要です。もし排尿が3日間以上ない場合(無尿)、重大な腎不全を招き、死に至る可能性が高くなります。
- 原因不明の猫下部尿路疾患
- 膀胱炎の症状があるのに、検査をしても原因が見つからない場合、「特発性膀胱炎」と呼ばれます。抑うつ剤が効果を示すこともあり、ストレスが原因とも考えられていますが、現在のところ詳しくはわかっていません。比較的若い猫に見られるのが特徴です。
膀胱炎の疑いを感じたらすべきこと

症状や状況を整理して、獣医師に相談
一般的に、尿に異常があってもきちんと排尿できていれば、すぐに重症になることは少ないと考えられます。しかし、前述したようにオス猫で尿がまったく出ない場合は、緊急を要します。
まずは動物病院に連れて行きましょう。その際、獣医師にきちんと説明できるように準備しておくことが大切です。「どのような」症状が、「いつから」見られるのかを、あらかじめメモに書いておきます。
「ふだんどのようなフードを食べているか」「トイレはいくつあるか」「1日何回ぐらいおしっこをしているか」「ほかに飼っている猫や犬がいるか」など猫のふだんの生活環境もわかるといいでしょう。心配なことや、獣医師に聞きたいことも一緒にメモしておくと、聞き忘れを防ぐことができます。
治療方法
細菌が原因の場合
代表的な治療方法は抗生物質の投与です。炎症の程度によっては、消炎剤を投与することもあります。
- 【治療費用例】
- 細菌性 : 通院費(8日分)47,685円
結石・結晶による炎症の場合
薬で溶かすほか、療法食で治療することもあります。猫では大きな結石はまれですが、結石が大きいときは、取り除く手術をすることがあります。一方、結晶状の結石が多量に膀胱にたまっている場合は、それを洗い流すために、尿量を増やすための輸液を静脈点滴または皮下投与で続けることもあります。
しかし、オス猫では結石を洗い流しても、すぐにまた閉塞してしまうこともあります。また、尿道に損傷や狭窄がある場合、結石がすぐにそこで詰まってしまいます。そうすると、新しい尿道口(尿の出口)を会陰部に形成する手術を行うことになり、術後も静脈点滴等を継続します。治療は長期にわたり、新しい開口部のケアは、飼い主も担うことになります。獣医師とよく相談し、指示を仰いできちんと対応しましょう。
- 【治療費用例】
- 尿道結石(ストルバイト) : 通院費(17日分)119,106円+手術費(1回)+入院費(1日)358,290円
原因がはっきりしない膀胱炎の場合
(特発性膀胱炎)
治療法は、痛みがあるときは痛み止めなど、対症療法がメインになります。またストレスとなっているものを探り出し、取り除くことも大切です。治療期間については繰り返しかかることもあり、比較的長期間の治療が必要になることもあります。
- 【治療費用例】
- 特発性膀胱炎① : 通院費(16日分)90,656円
特発性膀胱炎② : 通院費(2日分)12,499円
- ※実際に当社へご請求があった治療費用例です。
- ※治療の平均や水準を示すものではありません。
- ※動物病院によって、治療項目や金額は異なります。
薬による治療の場合は、食生活や水の与え方のケアも大切
膀胱炎では、食生活や水分の給与についても見直し、ケアをする必要があります。膀胱炎では、水分を摂ることが大切なポイントです。まずは新鮮な水を猫が好きなときに好きなだけ飲めるようにしてあげましょう。家のあちこちで飲めるように、給水ポイントを増やしてみてください。
もともと水をあまり飲まない猫の場合は、ウエットフードを与えて水分を摂らせるのもいいでしょう。また、猫の膀胱炎用療法食を処方された場合は、療法食を食べさせます。
そして、猫の生活環境を見直してみましょう。トイレをこまめに掃除して清潔に保つことや、猫のストレスを解消してあげることも大切です。
まとめ
膀胱炎は猫によく見られる疾患ですが、重症化すると慢性腎不全や尿毒症など命に関わる病気になってしまうこともあります。飼い主さんは日ごろから猫の排泄の様子や、おしっこチェックをして気を付けてあげたいですね。「いつもと違う」と思ったら早めに動物病院を受診しましょう。

監修者プロフィール
獣医師:佐々木伸雄 先生
東京大学卒業後、同大学の獣医学科、動物医療センターで動物外科の教員として勤務。主な対象動物は犬、猫であるが、牛、馬なども診療。研究に関しては、動物の腫瘍関連の研究や骨の再生医療など。2012年3月、同大を定年退職。この間、日本獣医学会理事長、農林水産省獣医事審議会会長などを歴任。
- ※掲載している内容は、2020年11月26日時点のものです。
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