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いきいき生活の知恵

第8回 認知症と診断されると金融商品は凍結されてしまうことを知っていますか?

コロナ禍にもかかわらず、株式相場が「想定以上の上昇」を続けています。日経平均株価が30年半ぶりに3万円台に乗ったなどという話を耳にすると、「運用をしないともったいないのではないか」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの感染状況の行方によって、相場の先行きは不透明な状態が続くと思われますが、相場の好調さだけに目を奪われると、将来、後悔する可能性があります。なぜなら認知症と診断された後は、運用商品の売買がほぼできなくなるからです。そこで今回は、「認知症と診断された後の金融商品の取り扱い」についてご紹介します。

認知症発症後は「契約」ができなくなる

最初から驚かせるような話になりますが、認知症と診断確定されると、ほぼすべての「契約」ができなくなります。家の売買契約のような、一生のうちに数回しかないことだけではなく、金融商品の取り扱いについても、さまざまな制限を受けてしまいます。

たとえば、普通預金や定期預金といった銀行預金についても、後見人を付けなければ、引き出すことが難しくなります。認知症を発症する前に代理人を付けておけば、認知症発症後も引き出せるケースはありますが、実際に代理人を付けている方はまだまだ少数派です。

そして金融商品の中でも運用商品については、認知症発症後は売買も引き出すことも、原則としてできなくなります。後見人を付けたとしても不可能です。後見人であっても、「値動きのある運用商品」の売買は認められないのが一般的だからです。後見人は資産の管理や保全が役割なので、値動きのある運用商品の売買タイミングを計って、有利に売却することなどは認められないのです。

困っている高齢の女性

運用商品をたくさんお持ちの方にとって、相場が下落すれば、損を抑えるために売却したり、銘柄を入れ替えたりするのは、よくあること。逆に相場が上昇すれば、利益を確定したり、相続対策のために売却して、贈与をするなど、資産額を抑えたくなるケースもあるはずです。ですが、認知症を発症した後は売却が許されないわけですから、相続財産として引き継ぐまで、運用資産は凍結されてしまう可能性が高くなるわけです。

運用商品の凍結で、希望する介護付き有料老人ホームに入れず

実際のご相談者で、1億円を超える資産を持ちながら、その多くが運用資産だったために、認知症発症後には換金ができず、希望する介護付有料老人ホームに入居できなかったケースがあります。運用資産が凍結されてしまったために、入居一時金が準備できなかったのです。結果として、特別養護老人ホーム(以下.特養)へ入所されましたが、自由になるお金が少ないため、公的年金では足りない特養の料金分については、お子さんたちが分担して負担されています。

悩んでいる老夫婦

加えて、次の事実も知っておくべきだと思います。2015年度に特養の料金に対する軽減措置(補足給付)の制度が改正になりました。それまでは年間の収入が少なければ、資産額が多くても軽減措置が受けられていたのですが、改正後は夫婦で2000万円超、単身者では1000万円超の資産を持っている場合、軽減措置が受けられなくなりました。その結果、安いと感じる方が多いはずの特養なのに、月額20万円以上の費用を支払うケースが増えています。現在の特養は、必ずしも安い施設ではなくなってきていることも、知っておく必要が出てきているのです。

老人ホーム

しかも単身者の場合は、「現在1000万円超」となっている資産の基準が、将来的には「650万円超」など、さらなる引き下げも検討されています。単身で650万円超の資産をお持ちの方は「介護が必要になったら、費用負担の安い特養に申し込めばいい」というプランは立てにくくなります。多くの運用資産をお持ちでも換金できないうえ、特養の軽減措置は受けられないとしたら、認知症になった場合、どうやって介護を受ければいいのでしょうか。実例のお子さんたちは、「認知症を発症する前に、預金に預け替えて、使えるようにしておくべきだった」と後悔されています。

75歳を過ぎた頃からは運用商品は換金するのが安心

ところで2025年には、65歳以上の約5人に1人が認知症を発症するという予測(※)があります。他人事だと思い込んではいけない現実があるわけです。

財布と通帳とキャッシュカード

認知症になっても、自分のお金を使いやすくするためには、75歳を過ぎたあたり、つまり後期高齢者になる頃からは、運用商品を少しずつ換金して、預金類に預け替えておくのが安心です。また親族が保有でき、引き出しも可能な代理人キャッシュカードを作っておくのもよいでしょう。代理人キャッシュカードは、すべての金融機関で作れるわけではないため、まずはメインバンクとして使っている銀行で「代理人キャッシュカードが作れるか」を確認することをおすすめします。

また信託銀行の中には、元気なときに契約を結んでおけば、認知症になった後も預金を引き出せるなど、認知症に備えられる信託商品を取り扱っているところもあります。信託銀行には、さまざまなリスクに備えられる商品が発売されているので、インターネットなどで、どのような商品があるのかを調べてみるのもよいでしょう。

銀行と老夫婦

認知症対策にしっかり取り組みたいというご家庭には、「家族信託」という仕組みを利用する方法もあります。家族信託は、子どもに資産の管理や処分などを任せる方法です。認知症発症後には利用できないので、親が元気なうちに信託契約を結ぶ必要があります。信託契約を結び、不動産の名義をお子さん名義に変更したり、「信託口口座」を開設できる金融機関に、管理を任せたい金額を移動するなど、認知症に備えた策を講じることができます。
※厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~概要」(2017年7月改訂)

預金が引き出せなければお葬式代は誰が立て替える?

後期高齢者になる頃からは運用商品を増やすのは避けて、銀行預金等に移動させることをおすすめしましたが、それは存命中に資産が凍結しないようにするための対策です。銀行預金に預けておいても、亡くなった後に法定相続人がすぐに引き出せるのは、仮払い制度を利用した場合で1金融機関当たり150万円が上限になります。遺産分割協議が終了して、その預金の相続人が確定するまで、預金は凍結されるのが一般的だからです。お子さんなどの法定相続人がいない場合は、銀行預金をすぐに引き出すのは難しく、預金はあっても「お葬式代は誰が立て替えるのか」という問題も起こりかねません。

生命保険パンフレット

そのようなことが想定できる場合、生命保険に目を向けてみてはいかがでしょうか。保険金は受取人の固有の財産になるので、遺産分割協議を行わずに受け取れます。相続財産として分割する必要もありません。保険会社所定の書類が保険会社に届けば、数日から1~2週間程度で保険金が受け取れます。保険金受け取りまでの日数が短期化されていることから、お葬式代などの支払いに間に合うケースも増えています。お葬式代や死後の片づけにかかる費用を現金で早めに準備したい場合は、死亡保険金を準備するのが確実だと思います。

さいごに

認知症発症後は運用商品が凍結されてしまったり、預金がたくさんあっても、引き出すのには手続きが必要になるなど、難しい問題が発生することがおわかりいただけたでしょうか。認知症を発症したとしても、持っている資産が凍結しないようにするためには、発症前の努力が欠かせません。亡くなるまで、必要なお金を自分のために使えるような工夫を、ぜひとも検討してほしいと思います。

ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子 さん

コラム執筆者

ファイナンシャル・プランナー

畠中 雅子 さん

【プロフィール】

大学時代にフリーライター活動をはじめ、マネーライターを経て、1992年にファイナンシャル・プランナーになる。

新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などを行う。

教育資金アドバイスを行う「子どもにかけるお金を考える会」、高齢者施設への住み替え資金アドバイスを行う「高齢期のお金を考える会」、主にひきこもりのお子さんの生活設計を考える「働けない子どものお金を考える会」を主宰している。

著書は、『貯蓄1000万円以下でも老後は暮らせる!』(すばる舎)ほか、70冊を超える。

プライベートでは、社会人の娘と息子、大学生の息子の3人の子どもの母。

  • ※掲載している内容は、2021年4月1日時点のものです。
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